何か(して)もらったこと/ものに対する感謝を「ハート(HRT)」というトークンを送ることで記録し、その履歴をコミュニティ外で通用する「信用」として利用する仕組みです。

通常、特定の誰か、あるいは自分が属するコミュニティに対して行われる贈与は、贈与を受ける人やコミュニティにとってのみ意味を持ちます。そうした贈与は、直接的な見返りを求めるものではないので、明示的に記録されないことを「美徳」とします。とはいえ、人は贈与することによって関係を深められるので、そのために積極的に贈与する動機をもっているのでした。日本的経営を採っていた会社では、そのような会社に対する積極的なコミットメントが「お金」とは異なる価値を生む仕組みがあったわけです。これが現代の私たちにとっても馴染みのある「贈与経済1.0」の仕組みです。

しかし、従来の「贈与経済1.0」では、まさにそのために関係への束縛が生まれます。贈与した記録は明示的なものではなく、コミュニティ内の「物語」に依存するものになってしまいます。誰か偉い人が「あいつは会社のために尽くしている」といえば「本当にそうか?」と疑問符がつくような場合でも、それが「客観的」なクレジットとしてカウントされることになっていたのでした。そうした環境では自然に「物語」を語れる立場にある人が権力をもち、人々はその人に何とか取り入って評価してもらおうとするでしょう。「お金」とは別に組織の論理で勝ち上がった人に権力が集中する危険が、従来の贈与経済には否応なくつきまとっていたのです。

「贈与経済2.0」では、贈与を受けたときにその出来事を感謝とともに刻む仕組みなので、それをどのような意味をもつものとして「物語るか」はまた別のものとして位置づけられます。そうすることで、贈与をした履歴を、その宛先となる誰かやコミュニティとの関係だけでなく、贈与者本人の「人となり」を証明するものとして使えることになるのです。どういうこと/ものによって「ハート」を受け取ったか、ブロックチェーン上に記録されるので、コミュニティ内の贈与であっても、その外で通用するような信用となるのです。ブロックチェーン上の履歴は、その人がどんな人かを示す信頼の基盤となり、その上に新しい関係を生み出すものになるでしょう。

「資本主義経済」だと、他人に何かをしてもらうのに「お金」が不可欠で、将来の不安に備えるには「お金」を溜め込む以外に方法はないと考えられますが、「贈与経済2.0」では「ハート」を使って紡がれた人間関係が「将来の不安」を解消してくれることになるでしょう。そこであなたは「個人」ではなく、コミュニティの一員として関係の中に生きることを実感できているはずです。人間関係を「財産」と考える人々の経済圏を作ることで、資本主義経済とは異なる他者との関わりが実現されます。